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飲食店における正しい洗浄・消毒の方法とHACCP導入による作業の標準化

この記事は、食品容器・資材専門の通販サイト「容器スタイル」が監修しています。


正しい洗浄・消毒は食中毒の発生防止の基本

食中毒の予防手段として、器具や設備の洗浄・消毒は欠かせない項目です。特に、飲食店においては、扱う品目も多く、加熱せずに提供する商品も多数あるため、いかに汚染源を減らすかが重要になります。

洗浄と消毒の違いや正しい知識を身につけ、食中毒事故をゼロにしましょう。

「汚れ」を落としたいのか「菌・ウイルス」をなくしたいのか目的を明確に

洗浄と消毒はよくセットで使われる言葉ですが、大きな違いがあります。

  • 洗浄:「汚れ」を落とす
  • 消毒:「菌・ウイルス」を無毒化する

洗浄によって異物を見つけたり取り除くことができる

汚れには「目に見える汚れ」「目に見えない汚れ」がありますが、洗浄では、これら両方の汚れを取り除く必要があります。

目に見える汚れを落とす

目に見える汚れには非常にたくさんの菌が潜んでいるので、汚れを落とすことで菌も一緒に洗い流せます。特に、食器類に汚れが残っているとお客様からのイメージを損なう原因にもなるので、確実に落としましょう。

目に見えない汚れを落とす

一見きれいな器具類にも、目に見えない汚れがたくさんついていることがあります。汚れは食中毒菌の栄養になるので、目に見えない汚れを放置したままにしておくと、営業時間外に食中毒菌が増殖するおそれがあります。
見た目がきれいだからといって安心せず、目に見えない汚れが残らないように、使用後はしっかりと洗浄を行いましょう。

消毒によって菌・ウイルスを無力化できる

消毒によって、器具に付着した菌やウイルスを無力化することができます。
洗浄だけでは全ての菌やウイルスを洗い流すことは難しいため、残った菌・ウイルスを消毒作業で退治しましょう。

消毒と似た言葉に、「殺菌」「滅菌」「除菌」「抗菌」などの言葉がありますが、それぞれ意味が違います。

※本記事では、菌を減らす意味として、「消毒」という言葉で統一しています。
また、「微生物」の中にはウイルスも含んでおります。

消毒|病原性の微生物を無毒化すること

消毒とは、食中毒菌や病原性ウイルスを死滅させる、感染力をなくす、害のない程度まで減らす等の方法で感染のリスクをなくす(=無毒化する)ことです。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)により、アルコールなどの薬剤で「消毒」の文言が使用できるのは医薬品か医薬部外品のみと決められています。 そのため、多くの食品現場で使われている食品添加物には、消毒という言葉は使えません。


消毒

滅菌|すべての微生物を死滅させること

滅菌は、病原性の有無にかかわらず、すべての微生物を死滅させることです。

日本薬局方(※1)では、「微生物の生存する確率が100万分の1以下になること」を滅菌と定義しています。 主に、医療関係や研究施設のクリーンルームで必要ですが、日常生活において使われることはまずありません。 食品衛生では、自社で菌検査をする場合は関係してきますが、調理現場やホールなど、日々の衛生管理で滅菌作業を行うことはありません。


滅菌

(※1)厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書

殺菌|病原性の微生物を死滅させること

殺菌は、病原性の菌やウイルスを死滅させることを指します。

滅菌と異なり、どれくらい死滅させるかの定義はありません。極論、1%でも菌が死滅すれば、99%生き残っていても殺菌と言えます。 消毒と同じく、薬機法により「殺菌」の文言が使用できるのは医薬品か医薬部外品のみと決められているため、食品現場で使われる食品添加物には殺菌という言葉は使用できません。


殺菌

除菌|増殖可能な菌を除去すること

除菌は、増殖可能な菌を除去、減少させるという意味です。

殺菌と同じく、減少させる菌数や割合は決まっていません。 食品衛生法では、「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去すること」と定められています。 菌の死滅以外にも、ふき取りや洗浄によって物理的に菌を除去することも除菌に含まれます。 除菌は消毒、殺菌と違い、言葉の使用に際して制限がないので、漂白剤や食品添加物アルコール、ウェットシートなど、いわゆる「雑貨品」で使われることが多いです。


除菌

抗菌|菌の増殖を妨げること

抗菌は、菌の増殖を抑制したり、感染力を弱めたりすることを指します。

菌を死滅させたり、除去するわけではありません。どれくらいの増殖を妨げればよいかなどの基準はありません。 経済産業省では、「抗菌加工製品」における「抗菌」を、「当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」と定義しています。


洗浄→消毒の順番で!

器具を洗浄・消毒する際は、必ず「洗浄」→「消毒」の順番で行ってください。
菌は、汚れの中に潜んでいるので、汚れがある状態で消毒をしても、菌に薬剤などが届かず、菌が生き残ってしまいます。

必ず、先に「洗浄」で汚れを落とし、続いて「消毒」で残った菌・ウイルスを死滅させましょう。


調理場で使用する薬剤は用途や方法によって使い分ける

洗浄や消毒を行うために薬剤を使用する時は、使い方や種類を間違えると、それが他の事故に繋がる可能性があります。
例えば、まな板など食品が直接触れる調理器具の洗浄で、必要以上に強い薬剤を使った場合、すすぎが不充分だと食品を汚染する恐れがあります。

使用用途が違う薬剤を使うと、全く効果が現れないどころか、対象物を傷つけてしまいます。
また、使用方法を誤ると、有毒ガスを発生させたりして、人体に影響を及ぼすおそれもあります。

必ず用途、使用方法を守り、正しく使いましょう。

洗浄剤を使用するか消毒剤を使用するか

一口に薬剤と言っても、用途によって種類が分かれます。


洗浄、消毒だけの効果を持つものや、両方の効果を持つ洗剤など、様々な種類があり、表に記載された薬剤以外にも、酸性洗剤やグリストラップ洗浄剤など、種類は多岐にわたります。

洗浄方法、消毒方法でお困りごとがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

衛生管理チェックサービス

人への安全性を確保することが最優先

薬剤を使う上で、使用方法は必ず守ってください。
例えば、次亜塩素酸ナトリウムは殺菌効果が高い分、使い方を誤ると、人体を害する可能性があります。希釈をおろそかにして、濃度が高いまま使用すると、対象物の劣化を急激に進めてしまいます。また、希釈濃度が正しくても、素手で扱うと、肌が弱い人は炎症を起こしてしまいます。特に注意しなくてはいけないのは、酸性のもの(お酢やクエン酸など)を混ぜると有毒な塩素ガスが発生することです。

薬剤の使用前は必ず用途、用法を確認し、正しく使用しましょう。

食中毒予防の洗浄・消毒はマニュアルによって手順化

洗浄、消毒の方法が従業員によってバラツキが出ないように、あらかじめマニュアルを作ることをオススメします。文部科学省が発行している「洗浄・消毒マニュアル」を参考に、現場に合ったマニュアルを作りましょう。


また、アルコール、次亜塩素酸ナトリウムの使い方、注意点については、動画でも解説しているので参考にしてください。



食器具は付着した有機物による汚れを取り除くことが目的

食器具に汚れや有機物、食中毒菌が付着していると、営業時間外に食中毒菌が増殖し、次に使用する時に汚染が広がるおそれがあるので、それらを取り除くことが必要です。
食器具は営業中は中性洗剤で擦り洗いをして、しっかり洗い流したあと、よく乾燥させてください。
営業後は中性洗剤で洗浄後、漂白剤を用いて20~30分つけ置きし、流水で洗い流してしっかりと乾燥させて下さい。
漂白の際、メラミン製の食器具に塩素系の漂白剤を使用すると、変色の原因になるため、酵素系の漂白剤を使いましょう。

設備や調理機器は調理過程によって区別が必要

設備や調理器具は使用用途や材質によって洗浄方法や使用する薬剤が異なります。

調理器具 の洗浄、消毒

まず前提条件として、食肉類、魚介類、野菜類、果実類等食品の種類ごとに、それぞれ専用の調理用器具を備え、また、それぞれの調理用器具等は下処理用、調理用、加熱済み食品用などの過程ごとに区別しておきましょう。

洗浄

調理器具は基本的には作業が終了するたびに中性洗剤で擦り洗いをし、しっかり洗い流した後、よく乾燥させてください。生で食べる食材や加熱後の食品を扱う調理器具は菌の汚染を防ぐため、除菌洗浄剤を使って洗いましょう。

消毒

調理器具の使用後は、消毒保管庫等で消毒し、保管します。消毒剤を使用する場合は、器具の材質や形状により、薬剤の濃度や使用量、使用方法等を守って消毒し、乾燥させてから、衛生的な戸棚等に保管します。
調理器具の消毒は一般的にアルコールと次亜塩素酸ナトリウムを使用します。
アルコール
水気を拭き取った後、スプレーで噴霧するか、不織布などに浸して拭き延ばす
次亜塩素酸ナトリウム
適正濃度に希釈した溶液で、200ppmで5分間、または100ppmで10分間浸漬した後、流水で十分にすすぐ(手指保護のため、手袋を着用する)

設備の洗浄、消毒

前提として、できるだけ調理用機器は下処理用、調理用、加熱済み食品用等調理の過程ごとに区別しておきましょう。

洗浄

1日の作業が終了したら、中性洗剤(頑固な汚れにはアルカリ洗浄剤)で擦り洗いをし、しっかり洗い流した後、よく乾燥させてください。

消毒

原則として消毒が必要なものは、主に次の2種類です。

  1. 加熱調理後の食品を扱う設備や機械、機器
  2. 生食する食品を扱う設備や機械、機器

消毒剤を使用する場合は、設備や機械、機器の材質や形状により、薬剤の濃度や使用量、使用方法等を守って消毒し、よく乾燥させます。
機器メーカーごとに清掃、洗浄方法が異なることがあるため、使用の設備、機械、機器の取扱い説明書を必ず確認しましょう。

調理衣の洗浄も忘れない

調理衣の洗浄は見落としがちなので、マニュアルを作ったり、従業員教育をするなどして、対策しましょう。
次の日も使うからと洗濯を怠ると、調理衣に付着していた食中毒菌が増殖し、二次汚染につながります。

また、家庭で洗濯する際は、毛髪やペットの毛が付いていないかもチェックしておきましょう。

衛生管理方法の世界基準となるものHACCPとは?

HACCPとは、調理工程内に潜む危害(食中毒菌など)を見つけ出して対策を講じることで、未然に健康被害を防止する工程管理のシステムです。近年、世界中で衛生管理の機運が高まっており、HACCPを導入する国が増える中、日本でも2020年から義務化となりました。

HACCPを実施するためには、その土台となる「一般衛生管理」が必須です。
器具や設備の洗浄・消毒は一般衛生管理の一つのため、HACCPに取り組むことで、洗浄・消毒もより一層強化できます。

2020年6月から義務化が始まり翌年には完全制度化される

2018年6月に食品衛生法が改正され、2020年6月から飲食店を含むすべての食品事業者でHACCPの義務化が始まりました。2021年6月1日をもって猶予期間が終了し、HACCPの義務化が完全施行となりました。まだ導入できていない事業者は、早急にHACCPを導入しましょう。

HACCPの導入は食中毒事故の防止に直結するので、「法律で義務化されたから」ではなく、「食中毒事故を起こさない」ために取り組みましょう。

洗浄・消毒手順ではHACCPの手引書を有効活用

飲食店におけるHACCP導入は、基本的に厚生労働省が発行する「多店舗展開する外食事業者のための衛生管理計画作成の手引き~HACCPの考え方を取り入れて~」を参考にするとよいです。

その手引書の中では、以下の8項目の衛生管理項目が挙げられています。

  1. 原材料受入れ(受入れ時の検品など)
  2. 原材料の保管(原材料の保管温度の管理など)
  3. 調理(洗浄・殺菌など)
  4. 加熱する食品(適切な加熱など)
  5. 加熱後に冷却する食品(適切な冷却など)
  6. 交差汚染・二次汚染の予防(手洗いのルールなど)
  7. 盛り付け(テイクアウト/デリバリー時の注意など)
  8. 機器の確認(温度計の確認など)

この「6.交差汚染・二次汚染の予防」の中に洗浄・消毒は含まれるので、HACCPに取り組むことで、必然的に洗浄・消毒についても強化することができます。

「HACCP」について動画でもご紹介しています

容器スタイルマガジンを運営する折兼では、フードビジネス事業者の方向けにYouTubeでも情報発信を行っています。
HACCPを導入するにあたって、分からないことや疑問点があれば、ぜひ動画「5分でわかるHACCP」シリーズをご覧ください。


飲食店向けの動画も公開しています。


HACCPの導入で明確な手順化をすれば正しい洗浄・消毒が確立できる

HACCPの導入は、洗浄・消毒を含めた衛生管理のレベルを向上に繋がります。HACCPでは、手順書・マニュアルを作ることが必須のため、それにより従業員にも正しい衛生管理の方法を周知させることができます。
HACCPを導入し、食中毒事故ゼロの飲食店にしていきましょう。



この記事を書いた人

古澤 長流(ふるさわ たける)

古澤 長流(ふるさわ たける)

2018年折兼に営業職として入社し、名南営業所に配属。
現場経験を積んだのち、2019年に折兼ホールディングスの衛生管理グループに異動・転籍。
日々、衛生について勉強中。
大学時代は病原菌について研究していたので、学んだことを生かして食の安全に役立つ記事を執筆していきます!

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